最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)244号 判決 1961年7月21日
上告人 桐山文二
被上告人 国
国代理人 林倫正 外二名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人矢野茂郎の上告理由第一点および第二点について。
原判決は、上告人は訴外平安伸銅株式会社の名古屋工場建設部長として、被上告人所有の旧名古屋陸軍造兵廠高蔵製造所構内の本件土地の整地に当り、右訴外会社が右土地を管理する東海財務局(旧名古屋財務局)局長より整地によつて生ずる鉱土並にスクラツプ類は一定の場所に集積し官に返納することとの条件附で本件土地に対する一時使用認可予定地域整地作業許可を受けたこと、非鉄金属、鉄屑等を含有する土砂が右にいわゆる鉱土に当ることを知りながら、被上告人の所有に属する鉱土を他に搬出し十数名の人夫を使用して水洗式により笊桶、スコツプ等をもつて右鉱土より価額合計金四、一二八、四四四円相当の非鉄金属、鉄屑等を撰別の上これを他に売却処分したこと、右土砂搬出撰別経費として四九六、五五二円を要した事実を認定した上、右認定程度の鉱土の撰別をもつて民法二四六条所定の加工となし難い旨を判示したものであつて、右判示は相当である。所論は、金属類の含有の程度によりいわゆる鉱土と廃土の区別があり、判示認定の金属類は廃土より撰別されたものも含まれるというが、金属類を含有する土砂を所論のように分類し、廃土については訴外会社の搬出処分を禁ぜられていないとの点は原判決の認容しないところである。原判決に所論の違法がなく、論旨はすべて採用できない。
同第三点について
原判決は、訴外会社が東海財務局長より本件土地の一時使用許可を受けるに当り、使用物件に対し維持保全又は改良その他の行為なすために支出する経費は申請者たる訴外会社の負担とする旨の条件を定められた事実を認定して、訴外会社が本件土地の整地費用を被上告人に請求し得ない旨を判示したものであつて、所論の証拠は右認定の妨げとならないから、原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一 山田作之助)
上告代理人矢野茂郎の上告理由
第一点原判決は民法第二四六条の解釈を誤り判決に影響を及ぼすことの明らかなる法令の違背がある。以下その理由を説明する。すなわち本件金属は、上告人が整地の余剰土砂に工作を加えた加工製品である。被上告人の所謂鉱土とは整地の余剰土砂中に工場操業当時作業過程において熔解飛散した細粒の微小金属が含まれているであろうと考えた東海財務局熱田出張所管財第二課不動産第一係長豊田章己の創作語に成る仮称物件で旧名古屋陸軍造兵廠高蔵製造所構内の鋳物並びに圧延の工場五棟千八百六十八坪及びその敷地四千六百二十四坪の工場内及びその周辺における整地の余剰土砂の局部的一部分に過ぎなく、いわゆる鉱土に当らない土砂は他え搬出して処分すべき廃土である(乙第一号証)但し廃土と云つても金属が含まれていないのではなくて鉱土と土砂との差異は、それらの中に含まれている鉱物の量によるのであつて有無によるのではない(乙第十一号証)上告人は、右整地上の余剰土砂すなわち鉱土及び廃土全部を他え搬出しこれに手を加えて複合を属性に分解、すなわち土砂を分析工作して売薬仁丹粒に等しき細粒の微小金属を技術的に採取したもので単なる土砂と金属の撰別(よりわけ)とは異なりその金属は土砂とは別な新しく作られた加工物である(国語辞典に工作を「作る」「拵える」「計画」「職人の仕事」などと云い。加工を「原料に手を加えて新しく別な品を作ること」と註している)と主張しているのに対し原判決は、第一審判決が「水洗式に笊桶、スコツプ等を以つてする程度の鉱物の撰別は民法所定の加工と為し難く従つて被告は右鉱土の不法搬出により原告に対して右非鉄金属、鉄屑の価格に相当する損害を加えたものと断ずる外はない」と説明せられた判断は是認になつたが、民法に加工というのは使用器具の種類や作業形態の如何によるのではない。器具を器械と道具に分類しても道具は単純な器械で、器械は複雑な道具であり作業形態も千差万別であつて、その問うところでなく加工か否かは、その物が工作以前の原状に還元することの物理的経済的能不能、難易乃至得失によつて定まるのであるが本件金属は元の鉱土には戻るべくもない。本件金属が単に鉱土から撰別(よりわけ)されたに過ぎないものであれば再び混ぜらば品質も価格も変らずに元の鉱土に還えり且つその鉱土は本件請求金額に相当する価格を保持しなければならない道理であるが本件金属は単なる鉱土との撰別物ではなくて鉱土に工作を加えた加工物であるから物理的にも経済的にも元の鉱土には還えらなきは勿論本件請求金額は、この還えらない加工金属の価格であつて鉱土の価格ではない。ここで同条但書の条件についてであるが被上告人の所謂鉱土に当らない土砂は他え搬出して処分すべき廃土であること及び廃土と云つても金属が含まれていないのでなく鉱土と廃土の差異は、それらの中に含まれている鉱物の量によるのであつて有無によるのでないことは既に述べた通りで然らば、その量の割合を比較することが出来るかと云うとそれは出来ない、なぜなら所謂鉱土とは整地工事の際他え搬出して処分すべき土砂すなわち廃土との関係において如何なる種類範囲程度の鉱物を含有している土砂をいうのか判らないからである(甲第四号証)この両者が、どちらも鉱物を含むこと及び、その含む量の比較の出来ないことは同熱田出張所長津田清太郎の甲第二十五号証における供述記載によつても明らかなるところである。してみると鉱土と廃土とは同じ毛並みの品物で鉱土に特段の価格がある訳ではない、現に同号証中における同人の供述記載にも実際に被害の有無は判らなく今でも判然しない旨及び同熱田出張所勤務管財第三課長技官和久田友平も警察官から本件金属量及びその価格を告げられての損害の質問に対し、土地に含有して居た鉄屑や金属類や又売つて得た金額はどの位か全然判らない、私は多少の金属はあることは知つて居たが是丈け多くあつたとは想像もつかない(乙第二号証)と云つている。以上に依り原審が本件を所謂鉱土の不法搬出に因る損害なりとして被上告人の請求を認容し控訴を棄却したのは民法加工の法則を誤解した判決である。
第二点本件金属は、いわゆる鉱土に当る土砂と鉱土に当らない土砂すなわち整地工事の際他え搬出して処分すべき廃土の双方から出た数量であるから、これを区別しないでその総数量の価格に相当する金額を以つて鉱土の搬出に因る国の損害であると主張する被上告人の請求を認容したる原判決は、判決に理由を附せず又は理由にそごある理由不備の判決にして破毀を免がれない。
第三点原判決は、反訴に関する主張も原判決援用の証拠に照らし、これを認むる証拠が無いと判示せられたが整地に投じた費用は必要費であつて国の負担であることは甲第二号証の一の起案者豊田章已の自認するところである(乙第一号証)のにこれを見過ごしたる理由不備の判決である。
以上